遺言は、単に誰に何を遺すかを決めるだけのものではありません。そこには、長年の感情や未練、そして小さな希望が込められます。今回は、「財産を渡したくない」という強い想いを、やさしく未来につなぐ形に変えたご相談事例です。
はじめに:長年のわだかまりを抱えたまま
「どうしても、あの人には財産を渡したくないんです。」
ご相談に来られたのは、70代の女性・Yさん。
長年連絡を取っていないご兄弟との関係に、深い溝がありました。
お一人で家を守り続けてきた中で、「自分が築いた財産は、自分の想いをわかってくれる人に託したい」という気持ちが強くなっていったといいます。
相談内容:「渡したくない」だけでは終われない心の整理
Yさんには法定相続人として兄弟が数名いました。
法律上、兄弟姉妹には遺留分はありません。つまり、遺言で「何も渡さない」としても法的には有効です。
それでもYさんは、「せめて自分の想いを伝える形にしたい」とおっしゃいました。
司法書士が丁寧にお話を伺うと、
・生前の金銭的トラブル
・介護をめぐるすれ違い
・そして「感謝の気持ちを伝えられなかった後悔」も、奥底にあることがわかりました。
「嫌いなままで終わりたくはない。でも、納得できないまま遺すのもイヤなんです。」
提案した方法:想いを伝える『付言付き遺言』に
司法書士がご提案したのは、公正証書遺言に付言事項(ふげんじこう)を添える方法でした。
遺言の設計ポイント
・財産は、長年支えてくれた友人と甥に相続させる
・兄弟には相続分を指定しない(遺留分がないため)
・付言事項で「なぜこの分け方にしたのか」「感謝の想い」を記す
付言事項とは、法的拘束力はないものの、
遺言者の心を伝える手紙のような部分です。
Yさんは最後にこう記しました。
長い間、距離ができてしまいましたが、
それぞれの人生を大切に歩んでくれたらと思います。
私の財産は、これまで支えてくれた人たちに託します。
どうかお互いのこれからが穏やかでありますように。
手続きを終えたあと:心が少し軽くなった日
公証役場での手続きが終わったあと、Yさんは静かに笑いました。
「渡さないじゃなくて、どう伝えるかに変えられました。」
その表情には、長年の緊張がほどけたような安堵がありました。
遺言は争いを生むものではなく、心を整え、想いを伝えるための道具でもあります。
※本記事は、同様のご相談をもとに再構成したフィクションです。実在の方の事例ではありません。
司法書士より
「渡したくない」という感情の裏には、「理解してほしい」「自分の生き方を認めてほしい」という想いが隠れていることがあります。
遺言はその想いを形にし、心の整理をつけるための機会でもあります。
法律に守られながらも、やさしく納得できる終わり方を見つけていく――それが、私たちのサポートの本質です。
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